しきたり雑考(12)
春分
今月は「春分」(しゅんぶん)についてお話し致します。
この春分は二十四節気のひとつで、今年は3月20日になります。
この日に昼と夜の長さが同じになります。
太陽が真東から昇り、真西に沈むのです。
西方浄土は極楽浄土といって、西の彼方にあると言われていて、
真西に太陽が沈むこの日に、西方浄土にいらっしゃる阿弥陀様に礼拝するのが
ふさわしいとされました。
ですから、この日をはさんだ前後の7週間を彼岸といって、
先祖供養するようになったと言われています。
彼岸には、心をこめて先祖の供養をします。
そのとき供えるのが牡丹餅(ぼたもち)です。
春には牡丹の花が咲くので「牡丹の餅」として牡丹餅といいます。
秋は萩の花が咲きますから、お萩というのです。
どちらも同じですが、昔は餡の作り方が違ったようです。
餡は小豆から作ります。
この小豆は秋にとれるので、小豆が新鮮で、
秋は粒あんで作ることができたのです。
春は小豆が固くなっているので、小豆の皮を取り除いたこしあんで作るのです。
甘いものが貴重だった昔は、とても御馳走だったようです。
さらには、この小豆には邪鬼を祓う力もあったと言われています。
彼岸に対する言葉は此岸(しがん)といいます。
此岸は煩悩多きこの世をいい、それに対して彼岸は
阿弥陀様の世界である煩悩を滅した安らぎの世界になります。
この世の迷い多い此岸で、煩悩に振り回されることなく心を調え、
煩悩に左右されない穏やかな生き方ができるように精神修養をするのが
彼岸でもあると言われているのです。
先祖様の供養はしても、精神的なことはおろそかになりがちですが、
そんな意味のある期間であると心得ておくことも、大切かもしれません。
此岸から彼岸に渡る教えが六つあって、その中に布施心であったり、
忍辱(にんにく)といって、耐え忍ぶ心があります。
煩悩に誘われる弱い自分を耐え忍んで止め、人の幸せのために働く。
そんな生き方が、生きながらにして彼岸の心を得ているといえましょう。