しきたり雑考(75)
身体を飾る
今月は「身体を飾る」についてお話しします。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}
身体を飾るために、さまざまな服があります。
服を着ないお相撲さんですが、相撲は神事なので、
服を着けないことが神様に対して、何も隠すことのない誠実さや
清らかさを表現していると言うわけです。
その意味でも、服を着けない姿は、身体を飾る、一つの表現かもしれません。
お祭りで神輿をかつぐ人が、裸でいるもの、同じ理由です。
さまざまな職業に、身体を飾る服(着物)を着ます。
僧侶は衣にお袈裟を纏い、儀式をします。
特に導師といって、儀式の中心に位置する人は、そのお袈裟もきらびやかです。
それは悟りを表現しています。
仏像には、光が出ていることを表現している光背)がありますが、
それを表現しているのも、このお袈裟かもしれません。
神事では、宮司さんが白の衣装を着けていますが、これも汚れない心を表現しています。
また神事の儀式に神を模して舞うとき、男女を問わず化粧をします。
これは神霊が乗り移ったことを示しているといいます。
七五三などでは、明らかに身体を飾る物が違います。
3才の女子は髪を伸ばし始める「髪置」(かみおき)という儀式をします。
これも身体を飾る一つの現れです。
5才では男子が袴を初めてはく「袴着」(はかまぎ)の儀式をします。
7才の女子は「紐落とし」の儀をします。子ども用のひも付きの着物でなく、
大人用の着物を初めて着るのです。
日本には「ハレ」と「ケ」という考え方があり、
「ハレ」は非日常的で普段とは異なる気分に満たされる時をいい、
「ケ」とは日常の暮らしをいいます。
その「ケ」である日常の生活が減退し衰退してくるのを「ケ」が枯れると表現し、
それを「ケガレ」というのです。その「ケガレ」から、抜け出し、
活力ある生活に戻るために、「ハレ」の力をいただくのです。
その「ハレ」のひとつの表現として身体を飾る方法を取るのです。
この七五三の身体を飾る方法も、
この儀式を通して「ケガレ」という生きる減退・衰退感を取り去り、
活力ある生活を取り戻すためにあるわけです。
身体を飾るさまざまな衣装は、そこに深い意味があるといえます。