法話
人生計画のすすめ 1 「計画にはどんな力があるのか」
今月から2回にわたって、「人生計画のすすめ」というテーマでお話を致します。
波に浮かぶ木の破片のような人生
人生に計画を立て、日々生活している人は非凡であり優れた人といえます。というのも人生計画をしっかり立て、自分の人生を生きることは、とても難しいからです。
誰しもが計画を立てることの必要性を知っていると思います。その計画を人生にまで応用し生きていくことが、人生を無駄にしないで生きていく方法なのですが、 どのように計画を立て、生きていくか、迷ってしまうところです。
一般的には人生を、あたかも浜辺で波が押し寄せては引いていくその上を、木の破片が波に揺られながら、波の行くがままにまかせて漂っている、 そんな人生を送っている人が少なくないかもしれません。
木の破片が私自身で、波が人生になりますが、それは苦しみがくれば苦しみ、その苦しみが過ぎて幸せがくれば喜び、面白くないことがあれば不平をいい、 思うようにならなければ怒ってしまうということです。
それらが何のためにあって、どうすればそれらの出来事に翻弄されることなく、もっと心穏やかに日々を過ごせるか真剣に考えもしない。そしてあっという間に一年が過ぎてしまう。 いえ、一生が過ぎてしまう。
そしてその一生の間に、「あなたは何を得たのですか。何を学び取ったのですか」と問われても、「さて、私は何のために今まで生きてきたのだろう」と考え込んでしまう。
それは行き当たりばったりの人生で、主体的に自分の生き方を定め、計画を立てることなく、生きてきたからではないかと思われるのです。
亡くなるときに、充実した人生であったと思い逝ける人は優れた人でしょう。でも、なかなかそうはいかないものです。
私も五十数年生きてきて、「あの時はもっとこうすればよかった。もっと勉強しておけばよかった。もっと人の役立つ人間になればよかった」と、さまざまな反省が湧き起こってきます。
今でもそれを取り返すには遅くないのではと思うのですが、そのためには残されたこの世の人生を無駄なく過ごす手立てが必要なわけです。 それが人生の計画を立てるということです。
新聞にみる計画性
計画を立て、事を成すというのは、どこでも見られることです。新聞を例に考えてみましょう。
私は朝、新聞を何誌も読みます。新聞を読むたびにいつも、よくみな研究されて作ってあることを思うのです。
30ページほどの紙面の中に、政治、経済、生活、社会、スポーツ、特集など、さまざまなジャンルに渡り、記事が載っています。
また1週間のなかでも、曜日によって、内容も違っています。また字の大きさや、写真の入れ方、レイアウトの仕方もそれぞれの新聞で違っていて、 おそらくスタッフが工夫を凝らし、時間をかけて計画し作っているのでしょう。
この新聞がもし、何の計画も立てずに作られているとしたらどうでしょう。きっとお粗末なものしかできないでしょうし、もしかしたら、新聞そのものができないかもしれません。
取材にいくにしても、何をどう取材したらよいか分からなくなります。
分からないから取材もできません。
以前ラジオ番組の取材を受けたことがありました。
10分ほどの時間の内容を4回にわたってラジオで流すということで、それを約3時間かけて取材をしていかれました。
取材に来られた人は女性の方でしたが、取材の内容を事前にまとめ、資料を集め、どんなことを聞くかを練られ、来ておられるのがよく分かりました。 だからスムーズに取材も終えることができたのです。
ある新聞(読売新聞2008.01.21)に「水の危機」という特集が一面に載っていました。
その第1回目が「1日何杯水を使いますか」というテーマで、その欄に10リットル入りのバケツが28個、三角形に並べられ、しかもカラー写真で載っていたのです。
それを見て、「これは何だろう」というのが最初の印象で、読み始めたのです。
これは読売新聞と東京大学が共同で実施した水使用の調査を報告している記事でした。 この写真の28個のバケツは、東京で暮らす3人家族の1人が1日で使う水の量だったのです。 しかもお風呂の水の交換を1日おきにして節水を心がけたすえの結果でした。
同じように調査していって、アメリカは23個、中国が5個、そしてケニアはたったバケツ2個分の水しか使っていません。
それがみな写真で記載されていて、目で見ただけで分かるという工夫がこらされていました。
こんなに国によって使う水の量が違っているのかと、その写真と記事を読んで思ったのです。
最近では月探査衛星「かぐら」が青く輝く地球をハイビジョン撮影した写真を見ることができます。 その写真を見るとまさしく地球は「美しい水の惑星」であるという思いが改めてします。
その水の惑星でも表層にあたる水の総量は13.9億立方キロメートルだそうで、その96.5%が海水です。
人が利用できる河川や湖などの淡水は、総量の0.0075%のようで、いかに水が貴重であるか分かります。
ケニアの二個に比べ、日本では1日1人28個分の水を使っているのですから、有り難いことでもあり、水の大切さをこの記事を読んで思ったのです。
おそらくこの記事を書いた記者は、それを理解してもらおうと計画し、「水の危機」という特集を新聞に載せたのだと思われます。 よくできた記事で、それはよく計画されて行った仕事であったからだと思います。
もう20年も前になりますが、私が住職するお寺で本堂の新築を致しました。
この本堂は偶然には決してできないものです。何度も会合を重ね、綿密な計画を立て、完成しました。
本堂の設計図を作る際にも、近隣のお寺さんを回り、その姿形や本堂内の様子を参考にし、「こんな本堂を・・・」と設計士さんにお願いして造ったのです。
ですからこの本堂が価値あるものになり、完成後も多くの人のお役に立って、信心の基(もとい)として今でも大切にされています。
計画をするというのは、何事においても、無駄をはぶき、価値あるものができるということです。 計画の結果できあがったものは、充実したものであり、悔いを残さないものになるということです。
この計画を人生に当てはめ、考えていくことが大切だと思います。 それは80年という人生を無駄にせず、価値あるものとするためには、どうしても必要な人生を生き抜く大切な作業なのです。
(つづく)