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みにミニ法話

(256)「あたたかな思い」

3月は春とはいえ、信州はまだ寒く、
あたたかでうららかな日が待ちどおしい、そんな思いがします。

しかし、日々、日差しが濃くなってきて、鴬も鳴き初め、
春のあたたかな日も多くなってきます。

あたたかな日差しで、花も咲き始めます。
あたたかさは生き物に成長させる力を与えているようです。

人のあたたかさも同じように、自分はもちろんのこと、
人に安らぎと生きる力を与えるものです。
あたたかな思いとは、相手を思いやる心であり、
優しさであり、慈しみの心です。

そんな心は、自分本位な思いを捨て、
相手を思う力を持たなくてはでてきません。
人はとかく、自分本位になりやすいので、そんな思いを常に戒め、
相手を思える心を育てていくことが大事になります。

徳というのは、自分のことより、
他の人のことを考える時間が多いときに培われると言われています。

常に相手のことを思える、そんな心を作っている人はとっさのときでも、
相手に思いやりの心を抱けるものです。

こんな投書がありましたので、載せてみます。
「とっさのこと」という題で、50代の女性の書いたものです。

「とっさのこと」

高校生の頃の話です。
私の実家は商売をしていました。

その日は、品物の仕入れを頼まれて、1万円を預かると、
学校帰りに市内に出るバスに乗りました。

バスを降りるときに、小銭がないことに気付き、
仕方なく回数券を買おうとすると、
運転手さんが回数券はきれているというのです。
いつもは定期券なので、お金がなくても平気だったけれど、
市内に出るバスでは定期券は使えません。
ワンマンバスの降り口のドアの所で、降りるに降りられず、もたもた。

すると、サラリーマンの男性が整理券を私の手からとって、
料金箱へお金と一緒に入れて、さっさと降りていってしまいました。
とっさのことで、お礼も言えません。

帰って家族に話すと、今度はあんたが困った人に返せばよいと言われました。
あれから40年。少しは困っている人を助けられたでしょうか……。

(喜びのタネ蒔き新聞 Mo.521)

思い出す度に「ありがとう」と感謝しています。
とっさのことでしたが、その思いを40年も忘れないで、
どなたかに返そうとしています。

あたたかな思いが心を染めます。